お届けいたします!

 私は今、とんでもない高級マンションの入り口で立ち尽くしている。
 おわかりかと思うが、ここは我が家ではない。
 著名人やどっかの社長が住んでいるというような、この辺りでも有名なマンションだ。
 もちろん、仕事柄このようなマンションに来ることは慣れている。けれど、今から行く部屋は常連だというのに緊張が抜けない。
 フーフーッと深呼吸してから、部屋番号を押して呼び出しボタンを押す。
……数秒待ってから応答あり。
「はいれ」
 こちらがモノを言う前にさっさと切ってしまう。これも想定内。カメラで見られているので笑顔は絶やさず。
 二重の自動扉をくぐり、エレベーター前へ。上層への高速エレベーターは一番右。乗り込んで三十五をプッシュ。このあたりから緊張はマックス。これは何回訪れても慣れない。
 エレベーターが開き静かな廊下へ。間接照明が優しく私を包みこむが心中は穏やかではない。
 さて、目的の部屋の前までやってきた。再び深呼吸してからインターホーンを押す。……数秒してから扉が開く。私は笑顔を絶やさない。
「こんにちは、エレクトリカルピザです。ご注文のお品を届けにきました」
 できるだけ静かに言う。中から出てきたお客様は私をじろりと睨んだ。切れ長の、刺すような眼。その人は手だけを出して「ん」と言う。その手に商品を乗せ「ありがとうございました」と静かに言う。笑顔は絶やさない。
 お、今日は何も言われないぞ、これはミッション大成功~と思った矢先だった。
 お客様はドアを閉める瞬間
「次、一分でも遅れたら許さん」
とセリフを吐いておられました。
 私は「すみません~」とすでに閉じられた扉に向かって呟いた。

「大丈夫だった?」
 店に戻ると同じ高校生アルバイターの由紀奈ちゃんが両手を合わせた。
「ほんとにありがとう! もう間(ま)宮(みや)には助けてもらってばかりだわ!」
「いやいや、別に構わないよ」
 私は顔の前で手をふりふりと振って笑「ハハ」と乾いた笑いを放つ。
「でもでもでも、あのお客さん、怖いからさあ……」
 たしかに、平日の真昼から家に閉じこもってばかりで何してるのかわからないくせに、あんな高級マンションに住んでいるなんて怪しいもんな。それにあの眼、あの神経質な感じ。
 扉が閉まる前に私に向けられた鋭い眼光を思い出して、私は震えた。その震えを由紀奈ちゃんは「怯え」ととったらしい。私の背中をぽんぽんと慰めようとする。
「それに、私、ちょっとアレなんだよね。横に膨らんでいるひとって苦手」
 たしかに、太ましい。そう、縦にも長いし横にも少々膨らんでいるので、とても巨漢に見える。由紀奈ちゃんが怖がるのも無理はない。
「間宮はよく平気だねえ。あ、もしかして我慢してくれてる?」
「ううん、普通に平気だよ」
 嘘じゃない。
「浦芝さん、ちょっと怖いとこあるけど、かっこいいと思うよ」
と言うと、由紀奈ちゃんは顔をしかめた。
「マジ?」
 マジです。
 だって、横に少し膨らんでいるけどあの眼、そして形の良い鼻、顔だけ見ればすごく眉目秀麗なんだけど。いかんせん太っているのと殺気を発する視線のせいで格好良さが埋れているのよね。と、力んで説得してもあまり理解してもらえない。なぜだ。
「はあ、まあ、そんなアンタの妙な好みのせいで私は助かっているわけだから何も言えない」
「あはは、だから気にしないで。むしろ浦(うら)芝(しば)さんは間宮担当な勢いでまかせて」
「マジでたのむわ」
 うん、たのんでたのんで。
 初めて浦芝さんの家へ配達に行ったのは三ヶ月前、それからこのバイトが楽しくて仕方がないのだ。
 今日は怒られないかな、最初は大きな声で挨拶してしまって失敗して、次は二分ほど配達時間が遅れて失敗して、次はおしぼりの入れ忘れで失敗して……でも最近は一分の遅刻ぐらいしか失敗はしていない。それでも浦芝さんからは殺意を感じるけど、それでもイイ!
 あの冷たい視線で刺されると、ゾクゾクしちゃうのよね。
 次はガンバロウって思える。
 それに、怒られないときは事務的な会話で終わってしまうから淋しさもある。怒られているときは、あー浦芝さんと会話しているなと思えるのだ。と言ったら「病気だ」と言われた。

 翌日も浦芝さんから注文が来た。水曜日は決まってオリーブとサーモンのゴルゴンゾーラチーズピサだ。飲み物はもちろんコーラ。
「間宮、たのむわ~」
 由紀奈ちゃんがネットで注文を確認して、調理していく。
 あれ、なぜかエレクトリカルオリジナルピザの用意をしている。おかしいな。私も注文表を確認したが、たしかにエレクトリカルオリジナルピザになっている。どういうこと?
「由紀奈ちゃん、一応オリーブサーモンも作ってイイ?」
「え、なんで?」
「もしかしたら間違ったんじゃないかなって」
「ふぅん……クレームくるのも怖いし、じゃあとりあえず二つ持って行っちゃって」
 私は二つ分のピザをバイクに乗せて走りだした。ショートパンツから覗く素足が少し寒い。この制服なんとかならないもんか。
 マンションに着くと、浦芝さんは「間違えた」とだけ言った。やっぱり! 私の予想が当たった!
「大丈夫です。オリーブサーモン持ってきました」
 そのときの浦芝さんの顔といったら、なんとも表現しがたい変な顔をしていた。嬉しいというより、少し困った感じに近い。
「代金は一つ分しか払わないからな」
「はい、もちろんです」
 浦芝さんはお礼も言わずに扉を閉めた。クールすぎるね!

 それから私の失敗はほとんどなく順調に仕事をやり遂げて言った。相変わらず浦芝さんからは褒められることはないが怒られることもなくなった。それはそれで少し寂しい。
 それでも次こそは「ありがとう」とか「おつかれ」とか言ってくれるかなと期待しながら配達する。淡い期待だけどね。それだけで仕事が楽しく感じられる。
 しかし、今日、私はやらかしてしまった。浦芝さんが頼んだピザに間違って余計なトッピングをしてしまったのだ。慌てて新しいものを焼き直す。少し飛ばせばなんとか間に合いそうだ。急いでバイクに跨ってかっ飛ばす。途中で雨が降ってきた。太ももに冷たい雨つぶが降り注ぐ。レインコート忘れたあ。
 無事にマンションへ到着したが、時間ぎりぎりで慌てていたせいもあり入り口で盛大にすっ転んでしまった。

 ピザ?
 あー、空中散歩しておりました。それはとても優雅に……

「君なあ……あ?」
 ドアを開けるなんり文句を言いかけた浦芝さんは、私の姿を見た途端に言葉を失った。そりゃそうだ。びしょ濡れの上に、膝はすりむいて流血状態アンド泥。
 それでも私は笑顔で「大変お待たせして申し訳ございません」と小さくお詫びした。
「……」
「……」
 浦芝さんは何も言わずに無表情で睨み付けてくる。 
 二人の間に沈黙が通る。私はその間、ずっと笑顔がこびりついたままだ。
 これはまずいなぁ、かなり怒鳴られるか本部へクレームが来るかもしれない。こう見えて、今までたくさん怒られたのに本部へのクレームはされたことがない。
 私が笑顔を顔面に貼り付けたまま固まっていると、浦芝さんは深く息を吐いた。
「……ちょっと」
「へ?」
 浦芝さんは私の腕を掴むとぐいっと引っ張り、扉を閉めた。靴を脱げと言われるまま靴を脱ぐと、また腕を引っ張られてダイニングへと連れられていく。
「そこ座れ」
「は、はい」
 大きなテレビの前にある、立派な革張りのソファに腰掛けた。低反発がすごすぎて宙に浮いているみたいだ。後ろにはカウンターキチンがあって、とても綺麗に片付けられている。よく見るとフローリングには塵芥ひとつ落ちていない。玄関からは私の濡れた足あとがくっきりと浮かび上がっていて申し訳ない気持ちになった。
 きっと、外で怒鳴ると廊下に響き渡るから近所迷惑だと思って中に招き入れたんだ。たぶん、私は今から浦芝さんから説教される。
 怖い、と思う反面、ここしばらく失敗をしていなかったからどんな風に怒られるのかわくわくしている自分もいた。たしかに、変かもしれない。

 間接照明が仄暗く部屋を彩っている。黒を基調としたインテリはまるで、新築マンションのモデルルームのようだった。モデルルーム入ったことないけれど、ポストによく入っているチラシの写真みたいな。なんだろう、さっぱりした柑橘系の匂いもする。落ち着くような落ち着かないような不思議な空間だった。
 足音がこちらに戻ってくる。ああ、これから説教タイムだと思うとドキドキした。
 そんな私のときめきなど知らずに、浦芝さんは私の前に現れる。
 そして、しゃがんだ。
 え?
 浦芝さんはどこからか救急箱とタオルと、それからぬるま湯の入った洗面器を持ってきて床に置いた。浦芝さんの手が私のふくらはぎを掴む。ハイソックスを少しずらし、ぬるま湯に浸したタオルで傷口を綺麗に洗い流していく。
 手が温かい。私から浦芝さんの頭しか見えないので、つむじを観察してみた。とても端正に生えそろっている。
 傷口の泥を取り終わると乾いたタオルで軽く拭き、救急箱から消毒薬を取り出した。ピンセットで綿を掴んで消毒薬に浸す。
「しみるぞ」
「え、ぴゃ」忠告通り、しみた。
 ガーゼで傷口を覆い、慣れた手つきで包帯を巻いていく。
「うわあ、包帯ってそうやって巻くんですね、すごい、病院でやってもらったみたい」
「一応セミプロだ」
「せみぷろ?」
「医学生をやっていた。まあ、医者になる前にやめちまったけどな」
「お医者さんの卵ってことですか」
「幼稚くさい言い方するな」
 ギロリと睨まれる。
「すみません……」
「まったくなんてことだ。ピザの配達員がピザを放り出して転ぶとはな。それでも金もらえるんだから良い商売だよまったく」
 そう言いながら浦芝さんは箱の中のピザを確認して眉間に皺をよせた。たぶん、ピザはとんでもないことになっているのだろう。
「申し訳ございません……あの、代金は結構ですので……」
「当たり前だ、愚か者が」
「ううぅ」
 はい失敗した。はいやっちまった。ああああああ、もうどうしよう。脚を治療してくれているときの優しさは、今は微塵も感じられないほど冷たいオーラを放っている。
 いつもの説教タイムとは違う、なにか、嫌な予感がする。
「まあ君はよくやったほうだ」
「うう」
 まだ、怒鳴られた方がいい。そのほうが、まだ「次」があるからだ。
「次は違う店に頼む」
 浦芝さんは冷たく言い放つ。
「ううううぅ」
 私はもう、なんとも言えないガチョウの首を絞めたようなうめき声しか出せなかった。
 仕方がない。浦芝さんはとても綺麗好きな人だ。だから、仕方がない。ミスをしてしまった私が悪いのだから。
 私は笑顔のままだ。でも、眼からは涙が零れ始めていた。
「あの、い、いままで……あり……」
 今までご利用ありがとうございます。それだけでも言わなくちゃ。言わなくちゃ。
「あのあの……うっ」
 早く言えつ、ほら、浦芝さん呆れてるから! この人に女の涙なんて武器は通用しないぞ!
 そう自分に活を入れたはずだった。
 それなのに、私は絶望のあまりに涙を堪えきれなかった。
「お店、変えないでぇ~、お願いします。なんでもしますから……」
 やっと喉の奥から搾りだして出てきたのは、なんと本音のなにものでもないセリフだった。
 さらに浦芝さんに呆れられること間違い無しだよ。
 えぐえぐと涙は止まらず、嗚咽も出始めた。こんなに泣いたのは小学生ぶりかもしれない。
 これでも元気だけが取り柄の間宮ちゃんだったのよ。
 浦芝さんから離れたくなくて、私は必死に言葉にならない言葉で「おねがいします~」と泣きじゃくった。怒られてもいい、睨まれてもいい、だから、離れたくない。
 まるでストーカーみたいだ、私。

 浦芝さんは思ったとおり、さらに鋭い目で私を睨み付けた。。
「なんでも……だと?」
「はい、なんでもします」
 浦芝さんは「ふぅん」と言ってからニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべた。
「なら、なんでもしてもらおうか」
「え、え?」
「なんでもするんだろう」
「はははい、へ?」
 浦芝さんは動揺する私の真横にぴったりとくっついて座った。何事かと考える前に腕を引っ張られて、私は浦芝さんの目の前に座っていた。背中に浦芝さんの巨体が密着する。
「あ、あの浦芝……さん?」
 後ろから伸びてきた手がポロシャツを捲り上げてブラの中へ侵入してきた。冷えたおっぱいに温かい大きな手が覆いかぶさり、ゆっくりと揉みほぐしていく。一体、何が起こっている?
「浦芝さん……」
 呼んでも返事をしてくれない。生温かい息が耳元にかかる。
 左手がショートパンツのホックをはずして入ってくる。手入れのしていない茂みを掻き分けていくと指先が突起物に触れた。
「ひゃあ」
 その瞬間に体中の力が抜けていった。同時に足先から電流がかけめぐってきて、目の前がチカチカする。
「ぃやぁ……」
 指先は突起物の先では小刻みに震え、奥のぬかるみで濡らしては戻ってくるを繰り返した。突起物に触れるたびに全身がびくりと痙攣する。
「君はただのバイトろう、嫌なら拒めばいいものを。それとも」
 舌が耳を這いずり回った。
「はっうう」
「よほどの変態だな」
 ぬかるみを何度も往復され、不意に止まるとゆっくりと中へ入ってきた。浦芝さんの身体がぴったりと背中にくっつき、ぱりっと糊のきいた白いシャツの匂いのする腕にしがみつく。指でかき回される度に小さな声が洩れてしまう。左手は乳首を弄られたり、お腹を伝って太ももを撫でられたり、あちこち忙しく動きまわっていた。
「ほら、嫌がれよ。こんなキモデブにこんなことされて悔しくないのか」
「だ、だって……」
 なんと言ったらいいのかわからずモゴモゴしていたら、腰を掴まれ、前のテーブルに手をつく格好にされた。さっきよりショートパンツを降ろされて浦芝さんの吐息があそこにかかる。
「言っとくが女の裸なんて見飽きてんだ。なんでもするって言ったからには覚悟しろよ」
 鼻先がかすめ、生温かいねっとりしたもので舐められた。丁寧に舐められたかと思えばだんだんと激しく動かされ、やがて吸い付かれ、舐めるという行為からしゃぶりつくに変化していく。
「はぁっ、うら……しばさん……んっ」
 水の跳ねる音と啜(すす)る音が交互に入り交じる。唾液と愛液が溶け合い太ももを流れ落ちた。
 ベルトの外す音がして、さっきとは違う固形物があそこにあてがわれる。それを上下に摩(す)って入り口にピタリとくっつけた。
「お前が、抵抗のひとつでもすれば……こんなんことにならなかったのに」
 指とは比べものにならないぐらいの質量が、中を突き抜けようとした。何度か入り口に戻ったりしながら確実にゆっくりと奥へ侵入してくる。
「ああっ、あううう」
「きっつ、処女じゃねぇんだろ……」
 痛みははじめだけだった、動きが激しくなるにつれ熱いものが次々に溢れでてきた。膝に力が入らずガクガクしていると、浦芝さんの膝の上に座らされる。もっともっと奥に入ってきた。
「ちょっとは緩めろって、きつすぎる」
「そ、そんな、あっ、わかんない……」
「はぁ、マジでこんな……こんなに入るなんて」
「そんなに入ってるの」
「全部、入ってる、ほら」
 浦芝さんはショートパンツを片脚からすべて抜き取って、両脚を広げた。真っ暗なテレビに淫らな姿が映っている。
「やだ……」
「こんなに濡らしまくって、とんだエロ配達員だよ。どうせ何回もヤってんだろ」
「ち、ちがっ」
 だって浦芝さんだからと言う前に、私は言葉にならない声を発していた。浦芝さんは私の身体を両手で締め付け腰を激しく動き出した。クリトリスも同時に弄ばれ、もう私の頭の中はぐちゃぐちゃになって、泣きながら変な声を出していた。でも、どこかで冷静な私が居て「ああ、今、浦芝さんに犯されてるんだ」と思い、ゾクゾクした。
「はぁっああっ、な、なにかっ、くるっ」
「そのまま……きていい」
 浦芝さんの声が合図のように、波が一気に身体を飲み込んでいった。痙攣が止まないまま浦芝さんのものが力強く押しこんできた。お腹の中に熱い感覚がした。
 しばらく、部屋の中は二人の吐く息だけが響いていた。

「女が滅多なことで、なんでもするなんて口にすんな。だからこんなキモデブにヤラれちまうんだよ」
「そ、それは違うっ」
 私は身体を捻って、浦芝さんの顔を見た。
「浦芝さんはキモくないです。ちょっと太ってるけど……私ずっと好きだったんだから」
 このときの浦芝さんの顔ったら、面白くて仕方がない。絶妙に微妙な表情をして
「君は……変態じゃなくて変な女だったのか」と言った
 うう、酷い。酷いけど浦芝さんらしいや。
 私は少し泣きそうになって(もう泣いていたけど)眼を閉じると、優しくキスをしてくれた。
「あと、あの、私、初めてですから……」
 そう言ったとき、浦芝さんは少々焦ったように目を大きく見開いてからみるみる身体の力だ抜けてくように猫背になった。
「それは、すまなかった」
 小さく萎んだ浦芝さんのそれが、私の中からするんと抜けてしまう。身体の中から必要なものがなくなったみたいに淋しくなった。
 浦芝さんは私の背中に顔を埋めて「すまなかった」と呟いた。

 それから、浦芝さんは私が怪我をして治療していたから戻るのが遅れたと店に連絡をしてくれた。これが罪悪感からではなく、本当の浦芝さんの優しさなんだろうと思う。
「では私は店に戻ります。あの」
 衣服を整えて、私は立ち上がった。シャワーを浴びるかと言われたけれど、もったいなくて断った。このまま、浦芝さんの香りを残したまま帰りたい。
「なんだ」
「あの、ありがとうございます」
 頭を下げる私の前で、浦芝さんは理解できないといったふうに戸惑いを見せた。
「わかってるのか、俺は君をレイプしたんだぞ」
「わかってますよ、だから、これからもエレクトリカルピザをよろしくお願いしますね」
 私が笑顔で言うと、浦芝さんは珍しく耳を赤く染めていた。
「まあ、別に、配達以外でも来てもいいから」
「ほんと!?」
「家で仕事……といっても株だけど、だからいつでも家にいるし」
 ぼそぼそと自信のなさそうな声で浦芝さんは言うけれど、私はその言葉を逃さなかった。
「やったあ、浦芝さん、大好き!」
 嬉しさのあまりに、大きなお腹にぽよんと抱きつく。気持ちがいい、幸せ。
「だから大きな声出すなって。君は本当に声がでかい」
「えへ、すみません」
 私は苦笑いしながら、マンションを後にした。
 声……そんなに大きいかなあ。

 その日、バイトが終わってからさっそく浦芝さんの家に行ってみた。
 私の姿を見たとたん、浦芝さんは「君は高校生だったのか」と、驚いたような怒ったような困ったような、それでいて嬉しいような表情をしていた。このときの顔は後々まで二人の間で語り継がれることになる。

一年後、

 待ち合わせのカフェに行くと、すでに浦芝さんがカプチーノを飲んでいた。
「遅い、二分の遅刻だ」
「ごめんなさいです……」
「それでも元ピザ配達員か?」
 相変わらず時間には厳しいお方です。
 でも変わったことは何と言っても、この外見でしょう。
 浦芝さんを包んでいたお肉はどこへやら、すっかり引き締まった身体になっている。もともとの身長が高いだけに、ときどきモデルに間違われる。あの由紀奈ちゃんまで驚くほどで「まみやあああ」と嘆いていた。むふふ、だから言ったでしょ。
「間宮がいるのに太っていられない」
と、引きこもり脱出も兼ねてジムに通いだしたおかげ。
「お肉ないと寂しいけどね」
「ん?」
 浦芝さんは訝しげに私を見つめた。
「なんでもないです。今日はお仕事休みなんですね」
「納期も終わって一段落したからな」
 そして身体もひきしまった浦芝さんはその後、株の腕を買われウェブ会社に就職した。
 医学生の時期に人間不信に落ち入り引きこもり生活をしていたわけだが、今では良き部下にも恵まれているんだそうだ。うんうん、よかったよかった。
「よし、行くか」
「んー、浦芝さんのうち?」
「いや、今日は違うところへ行く」
 浦芝さんはそう言ってニヤリと笑った。
 う、この笑顔、なんとなくこれから行く場所が予想できた。たぶん、面白そうなラブホでも見つけたんだろうな。日に日に浦芝さんのプレイは過激になっていくばかり。たまにレイププレイもするおかげで、演技力もついてしまった。だって、それで興奮した浦芝さん、すごい気持ちいいから。
 けれど、私の予想外な場所に到着した。なんと建設が終わったばかりの真新しいランドマークタワーの展望室だった。浦芝さんが言うには仕事のコネか何かで特別に貸し切りらしい。どんなコネ?今でもたまに、浦芝さんの交友関係がよくわからない。
「君、いや、間宮は来週高校を卒業だろ」
 浦芝さんは少し躊躇いを見せ、けど意を決したようにポケットから小さな箱を取り出した。
「まあ、卒業記念、みたいなもんだ」
 私は小箱を受け取り「あけてもいい?」と訪ねてから中を開いた。
「正直、ここまで立ち直れたのは間宮のおかげだと思ってる」
「うらしば、さん」

 ああもうどうしよう。
 浦芝さんが、そんなこと言うなんて。

 あのとき、本当は少しだけ怖かった。でも、浦芝さんを信じてみようと思った。
 だって、レイプだなんて言いながら、とても優しくしてくれたから。

                                        了

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